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2009年11月6日金曜日

ゆったりゲーマーズ第3話 布石

「あー、暇だな~。」
午後2時、日曜日、北千住の喫茶店「珈琲処」。
幸子は時間を持て余していた。
普段なら、水道橋のWINSで競馬に勤しんでいるところだが、最近負け続きで、すっかりやる気が失せていた。
特に先週のレースは最悪で、幸子の賭けた軸馬が3コーナー手前でつまずいて落馬。
1万円の損失となった。
「何か楽しいことはないものかなあ。」
ぼそっとつぶやく。
今日のブレンドコーヒーは一段と苦味が強いな。
幸子は眉間にしわを寄せた。
「今日は競馬に行かないんだね。」
珈琲処のマスター、坂口健一郎が話しかけてきた。
「最近負け続けだしね。これ以上やると今月暮せなくなりそうだわ。」
「毎月ぎりぎりの生活をしているよね。」
健一郎は苦笑いをした。
「3か月前はリッチに生活していたわよ。夏競馬では万馬券当てて、毎日のように飲んでたわ。」
「G1シーズンになると勝てないわけだ、本番に弱いね。」
「本当にね。去年もそうだったかしら。」
幸子は深々とため息をついた。
「おっと、ため息をつくと、幸せが逃げるよ。幸子ちゃんから幸が逃げたら何が残るだろうね。」
「ふふ、あまりこの名前に御利益はないみたいよ。でなければ、こんなに負け続けるなんておかしいわ。」
とりとめもない話で時間が過ぎていく。
平穏、平凡、代り映えのない毎日。そんな日々に、幸子はうんざりしていた。
何か、自分の世界を180度反転させるほどの変化を、幸子はいつも望んでいた。
自ら変化を起こせない人間は、他人の起こした変化に振り回されて生きていくしかできない。
幸子の願いは、いつも雑踏にかき消された。
「そういえば、最近お客さんが増えてきたんじゃない?この時間なら、以前は2,3人くらいしかお客さんがいなかったのに。騒がしくて、店の雰囲気ぶち壊しね。」
隣のテーブルで騒いでいる、学生をにらみつけながら幸子が言った。
「ああ、最近この近くにおもちゃ屋ができたらしいね。ちょうどこの店の隣に。日曜日になるとゲームの大会を開いているらしくてね。そのおかげもあって、若いお客さんが増えているのさ。常連の方々からは、雰囲気が変わって居心地が悪いとよく言われるよ。」
健一郎としては複雑な気持ちなのだろう。何ともいえぬ渋い表情。
「大会ねえ。私が言うのもなんだけど、いるのねえ、暇人が。」
「学生時代ってそんなものだろうね。僕も昔はそうだったさ。随分暇を持て余していたよ。」
「そんなものかしら。」

「ごちそうさま。」
「はい、またきてね。」
健一郎は、さわやかな笑顔で幸子を見送った。
店を出るなり、幸子は隣にある黄色い看板の店に目をやる。
「これが例のお店ね。まったく、人の憩いの場をめちゃくちゃにしちゃって。」
幸子の冷ややかな視線が、看板に注がれる。

「カードショップ ゴブリン」

「変な名前、ネーミングセンスを疑うわ。カードってことは、この前やったトランプ系のゲームが売っているのかしらね。」
以前、テーブルゲーム同好会でWizardというカードゲームで遊んだときのことを思い出した。
「あんなゲームは性に合わないわね。こんな店に用はないか。」
幸子は、北千住の駅に向かって歩き始めた。


まだ目覚めの時ではないようだ。気長に、気ままに待つとしよう。
その時が来るまで。

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