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2009年11月4日水曜日

ゆったりゲーマーズ第2話 Wizard



日曜日。日本畜産大学10号棟3階302号室。
時刻は午後12時50分。
幸子は、テーブルゲーム同好会のイベントに参加するべく後方の座席に腰掛けていた。
「へ~、大学の教室って、もっと広いイメージがあったけど、こういう小さな教室もあるのね。何か高校時代を思い出すな~。」
隣に座っている陽子が目を輝かせてあたりを見回しながら話しかけてきた。
「人気のない授業に、大講堂を使う必要もないからじゃない?こういう教室も必要なのよ。」
幸子が答えた。
「ふふ、幸子ちゃんの勉強嫌いは相変わらずね。勉強の話になるたびに顔が引きつってるんですもの。」
「授業なんて、ほぼ退屈なものばかりよ。」
幸子は苦笑いして答えた。
「え~、楽しそうじゃない。大学での勉強って。私はうらやましいな~。」

花園陽子。花屋「マーメイド」の店員。
観葉植物を買いに店を訪ねたのがきっかけで知り合いになった。
陽子は、高校時代から園芸が趣味で、卒業と同時にマーメイドに就職。
容姿端麗で、愛想も良く、近所で評判の看板娘である。
高校時代に一度、芸能プロダクションから声がかかったとか、かかってないとか。
そんな噂も飛び交っていたらしい。

「代わりに勉強やってほしいくらいだわ。」
「ふふ、幸子ちゃん、がんばって。」
幸子はため息を漏らした。

「あ、幸子さん、陽子さん、いらっしゃい。」
幸子たちが到着した5分後に遊太が教室に入ってきた。
「人を待たせるとはいい度胸じゃない、遊太。」
幸子の毒舌ぶりは、相変わらずである。
「ごめんごめん、色々準備があってさ。まあ、待ってよかったって思えるくらい楽しい一日になるはずだよ。期待してて。」
「わあ、楽しみ。」
陽子がこの上ない笑顔で答えた。
陽子のまわりに、一瞬ぱっと花が咲いたように見えたのは気のせいだろうか。
遊太は顔を真赤にして、ぽりぽりと頭をかいた。
罪な女ね~、と幸子は思った。

「で、今日はなんてゲームをやるのさ?」
幸子は尋ねた。
「これこれ。」
と、遊太が一つの箱を取り出して、テーブルの上に置いた。
「Wizard?」
箱にはそう書いてあった。
「そう、原型はトランプなんだけど、それにちょっと手を加えたゲームなのさ。」
「期待させといてトランプ?あんた、私らをなめてんの?」
幸子はメンチをきった。
「まあ、落ち着いてよ。ただのトランプじゃないんだよ。だいたい、普通のトランプだって十分盛り上がるでしょ?旅行のときとかさ。」
「そりゃそうだけどさ。」
幸子は不服そうに遊太をにらみつける。
「楽しめるかどうかは、やる人の問題なのさ。」
「そうね、幸子ちゃん、遊太くんと一緒なら、私は何をやっても楽しいわ。」
こ、この女・・・よくそんなセリフをさらりと・・・。幸子は背中が痒くなってきた。
幸子の異変に気づいた陽子は、どうしたの?といった表情で幸子をみた。
「話がそれてしまったね。じゃあ、このWizardってカードゲームの説明に入ろうか。」
「お願いしまーす。」
「コホン、このゲームでは従来のトランプ52枚に加えて、Wizardカード4枚、Jesterカード4枚を加えた60枚のカードで遊ぶゲームなんだ。カナダで生まれて、アメリカで大ブレイクしてね、今では世界大会が開かれるほどの有名なゲームなんだよ。」
「へ~、ゲームに世界大会なんてあるんですね~、すご~い。」
陽子は目をまん丸にして、興味津津といった様子で聞いていた。
「御託はいいから、さっさとルールを説明しなさいよ。」
あくびをしながら幸子が言った。
遊太は苦笑いしながら、説明を続けた。

Wizardカードゲームのルール
①最初は一枚の手札からはじまり、ラウンドが進むごとに、2枚、3枚と手札が増えていきます。
②その手札から、勝てる回数を予測して賭けに出ます。
③その通りの回数勝てれば、ポイントゲット。ただ勝ちまくればいいというわけではないのが、このゲームのキーポイント。うまく勝てる回数を予想できる人が、勝つゲームです。
④WizardとJesterが戦略の幅を広げ、うまく使うことで勝利に導くことができたり、逆に計算を狂わせたりします。
⑤最終的にポイントが一番高い人が勝者となります。

「なるほど、ただ勝ちゃいいってゲームじゃないわけね。」
「そう、要は手札をみてどれだけ勝てるかを予想するゲームだね。自分の力以上のことをしようとすると、身を滅ぼすし、逆にこじんまりまとまってもダメってわけさ。何か人生の教訓を教えられるゲームだよね。」
「あんたが人生を語るなよ。」
幸子がバッサリ切り捨てる。
「相変わらずトゲがあるよな~幸子さん。まあいいか。じゃあ整理しよう。カードの強さはJesterが一番弱くて、2、3、4、・・・・、K、Aの順に強くなって、Wizardが一番強い。カードを配り終えたら、配られた手札に応じて、何回勝てるか予想をしてゲームスタートだ。親の左隣の人から1枚ずつカードを出していって、最初に出された絵柄で、一番強いカードを出した人が勝ち。1回勝つごとに10ポイント獲得。手札を使い切るまで続けていくんだ。終わった時、勝てる回数が当たっていたら20ポイント獲得だ。」
「でもそれだと、最初にカードを出す人が有利な気がします。だって、手札に最初に出された絵柄のカードがあるとは限らないでしょ?」
陽子からツッコミが入る。
「その通り。だからもうひとつルールがあってね。カードを配り終えたあと、残りカードの山の一番上をめくって、切り札を決めるんだ。ここで出てきた絵柄は、最初に出されたカードの絵柄よりも強いカードになるんだよ。ただし、手札に最初に出されたカードの絵柄がないときにしか使えないから注意が必要だね。」
「ふ~ん、細かいルールは分かんないから、とりあえずやってみない?説明ばっかりだと眠たくなるわ。」
幸子があくびをしながら退屈そうに話す。
「おっと、失礼、百聞は一見にしかずというし、やってみるか。」
遊太がカードを切り始めた。
「そういえばさ、なんで教室には私たち3人しかいないの?もうとっくに大会始まってもいい時間でしょ?」
幸子は尋ねた。
「あ~、じつは、その~、他の部員全員急用ができたってことで、今日は来れないらしいんだ。」
「は?全員?どんだけタイミング悪いのよ。」
「いや、部員といっても僕含めて3人しかいないからね。他の二人、急にバイトが入っちゃったらしくて。」
「おいおい、私たちが来なかったら3人で大会やる予定だったの?」
「まあ、細かいことは置いといて、早速始めようよ。準備もできたし。」
「わあ、楽しみ~。」
こいつら、人の話聞く気ないね。幸子はため息をついた。

「じゃあ、まずは親決めからだ。この中からカードを一枚引いて。一番強いカードを引いた人が親だよ。」

幸子 K
陽子 2
遊太 A

「おっと、僕が親みたいだね。じゃあカードを配るね。1ラウンド目だから、最初は1枚ずつ配るよ。」
各々手札に目をやる。
配り終えたカードの山を中央に置き、トップをめくる。
出てきたのはハートのA。
「切り札はハートだね。」
「じゃあ、最初に出されたカードがスペードとかでも、ハートなら勝てるってことね。」
「そのとおり。じゃあ、何回勝てるか、みんなで予想しよう。」

幸子 0
陽子 1
遊太 1

「じゃあ僕の左隣の人からスタート。陽子さんからカードを出していって。」
「はーい。」

陽子 スペードK
幸子 ダイヤ 2
遊太 スペードQ

最初に出されたマークはスペード。つまりスペードで一番大きい数字を出した人が勝ちとなります。
「あ、これってもしかして私の勝ち?」
嬉しそうに陽子が声をあげる。
「あちゃー、なかなかうまくいかないもんだね~。」
遊太が悔しそうに頭を抱えている。
「ねえ、これって出たとこ勝負じゃない?2が手札に来た時点で勝ち目ないじゃん、私。」
幸子が不機嫌そうに文句を言う。
「いやいや、勝負に勝てなくても勝てる回数の予想が当たってればポイントは入るんだ。気にしない気にしない。」
遊太が幸子をなだめた。

1ラウンド結果。
陽子は勝負に勝って10ポイント獲得。さらに勝てる回数の予想も当たったので20ポイント獲得。合計30ポイント。
幸子は勝負に勝てなかったものの、勝てる回数の予想は当たったので20ポイント獲得。
遊太は勝負にも勝てず、予想も外れた。予想の回数よりも1回少ないので-10点。

「遊太、えらそうに話してた割にはへなちょこじゃない?」
幸子が悪態をつく。
「まだまだ勝負はこれからさ。手札が増えるごとにこのゲームは難しくなってくるのさ。」
遊太は余裕の表情だ。
「ふふ、私も油断できないわね。」
1ラウンド目うまくいった陽子は上機嫌だ。

2ラウンド目。
「じゃあ、親は時計回りに交代。次は陽子さんが親だね。みんなに2枚ずつカードを配って。」
「はーい。」
配り終えた後、陽子はカードの山のトップをめくる。
トップはダイヤの6。

勝てる回数の予想
陽子 1
幸子 2
遊太 0

「随分弱気ね、遊太。このクズ野郎。」
「なんとでもいってよ。要は予想が当たるかどうかが問題なんだ。じゃあ、幸子さんからカードを出して。」
「はいはい。」

幸子 ハートK
遊太 スペード 2
陽子 ハートQ

「あー、幸子ちゃん、ハートのKもっていたのね。Qが手札に来た時は勝てると思ったのになあ。」
陽子は残念そう。
「ふふ、ついてきたわ。一気にたたみかけるわよ。」
幸子はいきなり調子づいてきた。

「じゃあ、再び幸子さんからカードを出して。」
「分ってるわよ、うるさいわね。」

幸子 ハート A
「ふふふ、Aには勝てまい!」
幸子は勝利を確信した。
だが、
遊太 Jester
陽子 ダイヤ 2

「あら?あららら?」
「ふふふ、幸子ちゃん、ハートのAは強いけど、切り札には勝てないわね。」
「悔しい~!絶対勝てると思ったのに!」
幸子、玉砕。
「計算通り、計算通り。」
一人淡々と事を進める遊太。

2ラウンド結果
幸子は一回かったものの、勝てる回数の予想が-1。よって±0ポイント。
陽子は一回勝ち、予想も当たったので、合計30ポイント獲得。
遊太は一回も勝てなかったが、予想は的中。合計20ポイント獲得。

トータル
幸子 20+0=20
陽子 30+30=60
遊太 -10+20=10

「これっていつまで続くの?」
「最終ラウンドは、カードを全部配り終えたときだね。3人だから20ラウンドで終了するよ。」
「長すぎるわよ、それ!!なんとかならないの?」
「まあまあ、時間はたっぷりあるし、気長にやろうよ。」
「紅茶でも飲みながらゆっくりやりたいわね。」

1時間30分後、ようやくゲーム終了。
「終わった~。途中からもう集中力なくなっちゃったわよ。」
幸子の頭からは湯気がでている。
「結局、陽子さんの圧勝でしたね。」
「ふふふ、今日はラッキーなだけよ。」
陽子は満面の笑みで答える。
「それにしても、いまいち盛り上がりに欠けるわね。何か疲れだけが溜まったわ。よくこんなこと毎日やってるわね、あんた。」
「まだまだ幸子さんはこのゲームの魅力を分かってないだけさ。ハマれば毎日のようにやりたくなるものさ。」
「いや、私はごめんだわ。もう絶対来ないわよ、こんなサークル。」
「まあまあ、幸子ちゃん、そんな風に言うことないじゃない。たまに気が向いたときにでも参加したら?」
「そうそう、無理してやってもゲームは楽しくないからね。やりたくなった時は連絡ちょうだいよ。毎日のように遊んでるからさ。」
「毎日って、あんたも相当のダメ人間ね。」
「幸子さん、あんたそんな物言いじゃ、本当に男が寄り付かないよ。」
遊太は苦笑い、幸子はフンと鼻で笑った。
結局、今日はこれでお開きとなった。

「じゃあ、幸子ちゃん、またね。」
「うん、またね。」
帰り道、ゆったり公園のさくら通りで陽子と別れた。
幸子は噴水前のベンチに座って、煙草をふかした。
「何やってんだろ、私。」
誰もいない公園の中央広場で、幸子は独り言をこぼした。

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