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2009年11月9日月曜日

ゆったりゲーマーズ第4話 CUCCO(前編)

日曜日。午後5時、北千住「珈琲処」。
「こんにちは~。」
今日の幸子はえらく上機嫌だった。
「いらっしゃい、幸子ちゃん、陽子ちゃん。」
マスターの健一郎が笑顔で迎えた。
「幸子ちゃん、今日はえらく機嫌がいいじゃないか。さては今日は競馬でひと儲けしてきたな。」
「ふふ、今日は女神様がとなりにいたからねえ。」
幸子は、陽子の肩を引き寄せながら、満面の笑みを浮かべた。
「私何もしてないわよ。」
陽子は不思議そうな顔で幸子を見つめた。
「あんたがそばにいると、運気が一気に上昇するのよ。」
陽子と一緒に出かけるとき、確かについていることが多い。
以前、年末の頃、商店街に出かけたときに、福引きで2泊3日伊豆旅行が当たったこともあった。
それ以来、幸子はいつも勝負時になると、陽子を誘って出かけるようになった。
最近競馬で負け続けの幸子は、最終兵器を投入し、本日の勝利をもぎ取ったわけである。

「ここのお店のケーキはおいしいね。」
陽子はモンブランを頬張りながら、実にいい笑顔を見せた。
「そういってもらえると、作った甲斐があるってもんだな。」
健一郎がうれしそうに答えた。
「え?これマスターが作ってんの?」
と、幸子。
「あ~、俺じゃない。うちの嫁だ。午前中に作って、午後からこうやって店に出してるのさ。」
「へ~、いい腕してるじゃない、プロ顔負けね。」
幸子も、苺タルトに舌鼓を打った。

ひとしきりお茶を楽しんだところで、幸子と陽子は店をあとにした。
「あ~、おいしかったね~。」
陽子は大満足のようだ。
「まあ、うまかったけど、周りのうるさい学生連中、なんとかならないものかねえ。店の雰囲気ぶち壊しだよ。それもこれも、このセンスのないおもちゃ屋のせいだな。」
幸子は、「カードショップ ゴブリン」を指差しながら不満を漏らした。
「へー、こんなところにおもちゃ屋ができたのね。」
「最近できたってマスターが言ってたよ。週末になるとゲームの大会を開いてるらしくってね。さっきのうるさい学生は、大会の参加者じゃないかな。」
「ね、ちょっと入ってみない?」
陽子の眼が好奇心で輝いている。
「え、本気で言ってるの?カードゲームはもうこりごりなんだけどなあ。」
「そうなの?幸子ちゃん、この間は随分楽しそうにしてたじゃない。・・・途中までは。」
「一ゲーム2時間弱もかかったじゃない。あんなに長時間やれば、誰でも途中で飽きるわよ。」
「まあまあ、慣れてくればきっと面白くなるはずよ。それに、もっと簡単にできて、楽しいゲームがあるかもしれないわ。とにかく一度入ってみましょうよ。」
陽子は幸子の手を引いて歩き始めた。
幸子は渋々それにつづいた。

「いらっしゃいませ~。」
2人が店に入るなり、髪の毛がぼさぼさの店員が気だるそうに反応した。
「へー、中はこうなってるんだ~。」
陽子は興味津津に、あたりを見回した。
まず手前にガラスケースが2つ。中にはゲームで使うカードらしきものが陳列されている。
その奥にはレジがあり、椅子に座った店員があくびをしながら新聞を読んでいる。
店内の左手にはボードゲーム、カードゲームが並べられている。
新作は一番手前に置かれ、店員お手製のPOP広告でド派手にディスプレイされている。
右手はテーブルが三つあり、数人の学生と思しき連中がゲームを楽しんでいた。
「なんかごちゃごちゃした店内ねえ。」
一通り店内を見回したあと、幸子は左手の新作ゲームコーナーに向かって歩き出し、一番手前にあるゲームの箱に手を伸ばした。
「なんだこれ、日本語じゃないね。英語?」
「あ、幸子ちゃん見て、お店の人が書いた広告。なんかドイツで大人気のゲームらしいわよ。」
「へえ、ゲーム好きなのは日本人だけじゃないのね。外国にもゲームオタクっているのかねえ。」
幸子はあきれたように首を横に振った。
「でも、こういうゲームに夢中になる人の気持ちが分かる気がするわ。パッケージのデザイン見てるだけで、何か楽しい気分にならない?例えば、このパッケージの絵、すごくかわいい。」

陽子は「CUCCO」というゲームの箱を幸子に見せた。
「あ~、確かに。ゲームの面白さは別として、こういう動物の絵は悪くないわね。」
もともと動物好きの幸子。ここは相槌を打った。
「ヨーロッパの伝統的なカードゲームですって。ねえ、幸子ちゃん、ゲーム時間も1時間弱くらいみたい。これやってみない?私このゲームの絵が気に入っちゃった。」
子供のように無邪気な笑顔の陽子を見て、幸子は笑いそうになった。
「あんた、本当にいい笑顔するわねえ。まあ、一時間くらいなら丁度いいくらいだし、付き合ってあげるわよ。」
「ありがとう幸子ちゃん。じゃあ早速、これ買ってくるね。」
陽子は箱をレジまで持っていった。
「どうやったら、あんなに楽しそうに生きられるのか、教えてほしいものだわ。」
幸子は平凡で退屈な日常のことを思い出し、ため息をついた。

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